首页 理论教育人民参审员制度评估:理念与实践

人民参审员制度评估:理念与实践

【摘要】:第一の問いに対して、四人の裁判官は全員、自らの在職期間中、当事者の申請により人民参審員制度を利用して事件を裁判した経験はないといった。インタビューの対象は政治部の叢裁判官一名である。第二の問いについて、あらゆる事件の裁判について、主審裁判官が責任を負い、厳密にチェックするので、人民参審員の参加した場合でも、参加しなかった場合でも、違いがないと李裁判官と楊裁判官は述べた。

制度の運用に関わった裁判官と人民参審員が現在の人民参審員制度に対してどのような思いを抱いているのかを明らかにするため、現地調査を行った際に、筆者は裁判官へのインタビュー、人民参審員へアンケート調査、また、電話でのアンケート調査も同時に行った。以下では調査によって得られた結果とそれに対する分析を加えて行くこととする。

(1)裁判官へのインタビュー調査研究

裁判官へのインタビュー調査表は表4.36で示すとおりである。インタビュー調査の結果を論じる前に、この調査表に記した五つの問いについて予め説明しておきたい[64]。第一の問いは、実務において制度適用を決定するのは裁判官か当事者か、第二の問いは、人民参審員が参加した裁判としていない裁判との間で差異は生ずるのか否か、第三と第四の問いは、人民参審員が裁判に実質的に参加することができているのか否か、第五の問いは、実務において人民参審員制度がどのような機能を果たしているのかということをそれぞれ明らかにするために設けたものである。

表4.36 裁判官へのインタビュー調査表

① 湖北省のXJ市基層人民法院の裁判官へのインタビュー内容

インタビューの日時は、2012年2月21日15時から16時、2月22日15時から17時である。インタビューの対象は、刑事法廷の羅裁判官と民事法廷の周裁判官、政治部の主任である呉裁判官、副主任である李裁判官の四人である。

第一の問いに対して、四人の裁判官は全員、自らの在職期間中、当事者の申請により人民参審員制度を利用して事件を裁判した経験はないといった。第二の問いに対して、裁判手続を主導したのは裁判官である裁判長であり、人民参審員の参加した事件と参加していない事件とで裁判をする期間に違いはなく、裁判結果にも差異はないと感じていると羅裁判官と周裁判官は述べた。人民参審員が参加するか否かで二つの事件の間で裁判の時間や結果において差異が生ずるか否かに関する調査がなかったため、その問いには答えられないと政治部の呉裁判官と李裁判官は述べた。

第三の問いについては、裁判が始まる前に、人民参審員が裁判官と同様に事件に関する文書を予め読んでいるかどうかが不明であり、刑事裁判の場合では人民参審員は殆ど発言せず、また民事裁判の場合でも人民参審員は裁判官のように法適用や事実認定に積極的に関わってくるようなことはない。しかし、事実に関して当事者に対して聞いたり、確認したりすることはあると羅裁判官と周裁判官は述べた。人民参審員の研修を行う際には、積極的に裁判官と同じく事前に、事件に関する文書を読み、裁判、ひいては、合議の場で発言するようにと要求したが、実務では人民参審員の仕事が忙しいこと、また、裁判官の発言に賛成することなどを理由として要求に応じてくれないと、人民参審員の研修·管理を担当する政治部の呉裁判官と李裁判官は指摘した。第四の問いに対しては、人民参審員の意見と独立性を尊重し、協力しようとしていると羅裁判官と周裁判官は曖昧に述べた。具体的な事件の裁判に携わっていない呉裁判官と李裁判官から返答を得ることはできなかった。

第五の問いに関しては、人民参審員が裁判へ参加することによって、判決が下された後の人民参審員から当事者への説得が、敗訴当事者の判決に対する不平と不満を緩和、解消させるのに役立っているとは羅裁判官より、裁判が行われる前に一部の民事事件を調停し、紛争が裁判になる前に解決するように人民参審員が働きかけているとは周裁判官からそれぞれ返答を得ることができた。これに対して、XJ市基層人民法院の通常手続で要求される3人から成る合議体を形成するために、人民参審員の存在は不可欠だと政治部の呉裁判官と李裁判官は述べた。

② 内モンゴル自治区のTZ旗基層人民法院の裁判官へのインタビュー内容

インタビューの日時は2012年8月15日14時から15時である。インタビューの対象は政治部の叢裁判官一名である。

叢裁判官は五つの問いに対して、「在職中の人民法院では今まで当事者による申請はなく、具体的な事件の裁判に制度を適用するかどうかは完全に人民法院により決定されていること。そして、人民参審員が参加した事件の裁判と参加しない事件の裁判との差異はあまり生じていない。その理由として、裁判官責任制、つまり、人民参審員ではなく、裁判官が不当な裁判や冤罪事件が発生した際に、責任を負う制度が人民法院システム内で存在しているため、裁判官が人民参審員よりも事件の裁判に対して慎重な姿勢を取っていること。多くの人民参審員が裁判の始まる前に、訴訟文書に簡単に目を通しており、裁判中に、人民参審員が発言することもあるが、あまり頻繁でないこと。また、審理中に、意見が一致しない場合は、法にしたがって、多数決で判決を決めていること。「人民当家作主」という政治観の司法上の体現として、制度の運用によって民衆が従来から持っていた人民法院、ひいては、裁判官への抵抗感がある程度払拭されてきていること」をそれぞれ述べた。

③ 重慶市第三中級人民法院の裁判官へのインタビュー内容

インタビューの日時は、2012年8月22日9時から12時、14時から16時である。インタビューの対象は、民事法廷の李裁判官、刑事法廷の陳裁判官、行政法廷の楊裁判官、政治部の李裁判官の四名である。

第一の問いについて四人の裁判官は全員、今まで当事者による人民参審員制度の適用申請を扱ったことはないと答えた。第二の問いについて、あらゆる事件の裁判について、主審裁判官が責任を負い、厳密にチェックするので、人民参審員の参加した場合でも、参加しなかった場合でも、違いがないと李裁判官と楊裁判官は述べた。人民参審員が加わった事件の裁判と加わらない事件の裁判との間に生じる唯一の差異は裁判官のみで形成された合議体による合議は充分に行われるのに対して、法律知識の欠如した人民参審員と裁判官から成る合議体による合議は往々にして不十分なままに終わるということだと陳裁判官は強調して述べた。政治部の李裁判官は、該当する二種類の事件の裁判について別々に統計をとり、分析した資料がないために、問いには答えられないと述べた。

第三の問いについて、事件類型にかかわらず、陳裁判官も、楊裁判官も、李裁判官も、人民参審員に事前に訴訟に関する文書を閲覧する者が極めて少ないという点で意見は一致していた。また、上述の三人の裁判官は、合議の際、特定の専門知識に関わる民事事件、例えば、医師の人民参審員が参加した医療紛争事件などを裁判する場合、その知識を有する人民参審員、つまり医師などが積極的に発言している場合を除き、他の事件を裁判する際には、審判と合議の過程で人民参審員から発言がなされることは殆どないと述べた。

第四の問いに関して、三人の裁判官は、どちらもこれまで決議の際、自らの意見に対して人民参審員から反対される様なことはなく、もしもこの先、人民参審員が異なる意見を提出した場合には、法に従って、多数決で決議を取るべきだと述べた。ちなみに、政治部の李裁判官は上述の二つの問題に関して言及することを避けた。

現実に制度がどのような機能を果たしているかに関して、陳裁判官は、基層人民法院にとっては裁判官不足の困難を解決し、合議体を形成するための人民参審員を確保することは制度が実際に有している機能であるが、中級人民法院では人民参審員は何らの機能をしていない者たちだと指摘した。それに対して、李裁判官と楊裁判官、政治部の李裁判官は、制度の実施が[人民当家作主]という政治観を司法の場で表現するのに役立っていると述べた。

④ 重慶市LF区基層人民法院の裁判官へのインタビュー内容

インタビューの日時は、2012年8月23日9時から12時、14時から16時である。インタビューの対象は、民事法廷の厳裁判官と何裁判官、刑事法廷の徐裁判官と楊裁判官、行政法廷の陳裁判官と劉裁判官の六人である。

一番目の問いに対して、六人の裁判官は全員、当事者の申請により制度が適用された裁判を行った経験はないと答えた。そして、二番目の問いについて、劉裁判官を除く五人の裁判官は共に人民参審員が参加した事件の裁判と参加しない事件の裁判とには差異が生じないと述べた。さらに、徐裁判官はいずれにせよ、人民参審員がいる合議体でもいない合議体でも審判と合議の進行は裁判長である裁判官により決められているためであるとその理由を述べた。それに対して、22年間の勤務を経験している劉裁判官は、そもそも行政法廷において人民参審員制度はあまり適用されておらず、更に、人民参審員が参加した事件の裁判と参加していない事件の裁判に関する統計をとり、分析した資料はないと説明し、問いには答えられないと述べた。

第三の問いに対して、六人の裁判官は、事件の類型を問わず殆どの人民参審員が事前に訴訟資料を読まずに、審判と合議の場でも発言をしないと答えた。それに、民事法廷の厳裁判官は、専門知識に関わる民事事件を裁判する場合、人民法院が往々にしてその専門知識を有している者に事件の裁判を担当させるため、そのような事件の裁判に参加した人民参審員が専門知識を生かして、裁判官へ意見を提出する傾向にあり、例えば、医療紛争に関わる事件を裁判する場合、医師の人民参審員は積極的に事実に関して質疑を行い、合議の際にも、独立した意見を述べていると補足した。つまり、選任された人民参審員の内、少数名だけが、実質的に裁判に参加しているということである。

第四の問いについて、民事法廷と行政法廷に所属している四人の裁判官は、これまで合議体の人民参審員が裁判官と異なる意見を提出したことはないと述べたのに対して、刑事法廷の徐裁判官と楊裁判官は、おおよそ10%未満であるが、人民参審員の参加した刑事事件の裁判において、人民参審員が裁判官と違う意見を提出しており、その場合には、合議体による単純多数決で最終的な意見を決定し、もし三人の合議体で三つの異なる意見が提出された場合であれば、法律に従ってその事件を院長に報告し、裁判委員会への付議申請を求めると述べた。

制度が実際にどのような機能を果たしているかという問いに対して、徐裁判官と楊裁判官、何裁判官がはっきりとは言えないと答えたのに対して、厳裁判官と劉裁判官は、合議体を形成する裁判官数の不足という現実の問題を解決したことを実質的な制度機能だと見なし、陳裁判官は、一般の民衆を裁判に参与させることで、人民のために奉仕する人民法院と裁判官という政治観を宣伝するようになることが制度の実際の機能だと考えていると述べた。

⑤ 広州市中級人民法院の裁判官へのインタビュー内容

インタビューの日時は、2012年8月31日9時から12時、14時から16時である。インタビューの対象は、民事法廷の黄裁判官と楊裁判官、鄭裁判官、羅裁判官、刑事法廷の彭裁判官、行政法廷の肖裁判官と竇裁判官の七人である。

第一の問いに対して、民事法廷の羅裁判官を除き、他の六人の裁判官は、在職中において、当事者の申請によって人民参審員制度を適用し、事件を裁判した経験はないと述べた。唯一、当事者による申請で制度を適用した裁判を行った裁判官として羅裁判官は、これまでに一件だけ、人民参審員が参加した事件の裁判が、当事者による申請で行われたと述べた。適用された事件は渉外商事事件で、外国人の原告が訴訟時間を節約するために、人民参審員制度の適用を申請したものであった。なぜ原告が人民参審員制度の適用を申請したのかというと、合議体の形成にかかる時間から見て、人民参審員は裁判官よりも機動的で速く事件の裁判に配置されるからだと述べた。

第二の問題について、七人の裁判官は、人民参審員の参加する事件の裁判と参加しない事件の裁判との間に差異は生じないと答えた。民事法廷の黄裁判官は、なぜならば、裁判過程を主導するのが人民参審員でなくて、裁判官だからであるということを補足説明として述べた。

第三の問題に対して、民事法廷の黄裁判官と楊裁判官は、当該法廷で合議体に参加した人民参審員は一般的には事前に資料を読んだり、裁判中に質疑や意見を提出していると述べたのに対して、他の五人の裁判官は、これまで人民参審員が予め資料に目を通したり、裁判中に発言したような経験はないと答えた。また、なぜ人民参審員が裁判官のように予め訴訟に関する資料を読まないかということに関して、民事法廷の羅裁判官と行政法廷の肖裁判官は共に人民参審員は自分の仕事で忙しく、特別に資料を読む時間を作りたくない、また、人民法院には人民参審員が資料を読む場所が存在しないことがその原因だと述べた。

第四の問いについて、民事法廷の鄭裁判官と楊裁判官の二人だけは、在職中に合議の時、人民参審員から裁判官と異なった判決に関する意見を提出された経験があるが、その場合であれば、法律に従って合議体の構成員による単純多数決で最終的な判決を下すと述べた。

最後の問題に関しては、民意を判決に反映しまた法律知識を普及し、市民と裁判官との距離を縮め、合議体を形成する人的不足を解決することが実質的な制度の機能であると民事法廷の黄裁判官及び楊裁判官、鄭裁判官、羅裁判官らがまとめたのに対して、行政法廷の肖裁判官と竇裁判官は、実際に人民参審員制度は何らの機能も果たしておらず、ただの飾り物にすぎないと低い評価であった。また、刑事法廷の彭裁判官は、その問いについては依然としてはっきり言えないという曖昧な返答をした。

⑥ 広州市HZ区基層人民法院の裁判官へのインタビュー内容

インタビューの日時は、2012年8月28日9時から12時、15時から17時である。インタビューの対象は、民事法廷の隋裁判官と劉裁判官(1)、劉裁判官(2)、鄭裁判官、張裁判官、刑事法廷の馬裁判官と浦裁判官、行政法廷の蘇裁判官の八人である。

第一の問いに対して、全ての裁判官が、これまで当事者の申請により制度の適用が決められた事件の裁判を経験したことはないと述べた。

第二の問題について、刑事法廷の浦裁判官を除き、他の七人の裁判官は、実際に事件を裁判し、事実認定と法律適用を決める者は人民参審員ではなく裁判官であるため、人民参審員が参加した事件の裁判と参加していない事件の裁判とに差異は生じないと答えたのに対して、浦裁判官は、刑事訴訟の場合は量刑に関して、人民参審員が裁判官よりも一般市民の感覚を理解しているため、人民参審員によって定められた刑罰は裁判官によるものよりも、一般的な感情から見て納得ができると思っていると述べた。

第三の問いについて、八人の裁判官はいずれも、殆どの人民参審員は事前に、訴訟に関する資料を読んだり、裁判中に発言したりすることはないと答えた。それに関して、理由を尋ねると、民事法廷の張裁判官と行政法廷の蘇裁判官は、人民参審員は自らの仕事が忙しく、裁判官のように裁判に時間を割きたくないことがその原因であるかもしれないと語った。

第四の問いに対して、全ての裁判官が口を揃えて、これまで合議を行った際に、人民参審員が裁判官の意見と異なる意見を提出してきた経験はなく、もしそういった状況が発生するならば、法に従って、単純多数決で最終的な意見を決定すると答えた。

制度が実質的にどの様な機能を果たしているのかという問いについて、民事法廷の劉裁判官は、事実認定と法律適用といったものよりも、むしろ裁判官の不正を監督し、裁判官の官僚主義化を防ぐことにあると語ったのに対して、隋裁判官および劉裁判官(2)、馬裁判官、鄭裁判官、張裁判官の五人は、制度が運用されることによって司法の場で「人民当家作主」という政治観を体現できるようになることをその機能として挙げた。刑事法廷の浦裁判官と行政法廷の蘇裁判官の二人は、この問いに関してははっきりとは答えられないと述べた。

⑦ 上海市ZB区基層人民法院の裁判官へのインタビュー内容

インタビューの日時は、2012年9月5日9時から12時、15時から17時である。インタビューの対象は、民事法廷の董裁判官、刑事法廷の周裁判官·張裁判官、行政法廷の王裁判官の四人である。

第一の問いに対して、董裁判官および周裁判官、張裁判官は、これまで当事者の申請で制度の適用が決定された事件の裁判に携わった経験はないと答えたが、行政法廷の王裁判官は、2005年と2006年において一部のみだりに建築物を建てた者が期限内に撤去し立ち退く行政命令を不服とした行政事件の原告が、人民法院が人民政府との間に権力の関係があることを配慮し、人民政府への不信感が人民法院へ移ったために、人民法院に専属する裁判官より超然の立場に立つことができると見られる人民参審員が参加する合議体による裁判を申請したのであり、その申請に基づき、人民参審員制度の適用を決めた経験があると語った。

二番目の問いについて、四人の裁判官はいずれも人民参審員の参加した事件の裁判と参加していない事件の裁判とに差異は生じていないと考えている。また、なぜ差異が生じないのかという問いに、刑事法廷の張裁判官は、人民参審員として選任された者が裁判官とほぼ同様の素養を有していることをその理由として挙げた。

第三の問いに対して、民事法廷の董裁判官は、人民参審員の内、定年を迎えた者は、基本的に事前に訴訟資料に目を通しているのに対して、在職中の者は目を通していない。裁判の最中、とりわけ審理の際、事案の単純な事件を裁判する場合に、人民参審員は殆ど発言をしないのに対して、複雑な事件を裁判する場合または専門知識が必要となる事件を裁判する場合に、人民参審員は発言をすることが多いと述べた。しかしながら、刑事法廷の周裁判官と張裁判官は、人民参審員は事前にあまり資料を読まず、なぜならば、多数の人民参審員が在職中の者であるため、資料を読む余裕がなく、また、実質的に判決を下す権限が裁判官にあるので、その意欲もないことを理由として挙げた。更に、事前に資料を読まないため、事件の裁判に関して疑問を持つこともなくなるようである、と付け加えた。行政法廷の王裁判官は、現実には、裁判官も人民参審員も裁判の前に資料を読む者は一部であり、なぜならば、裁判をする過程で資料を読む時間は用意されており、裁判中において、裁判官による質問が十分になされるため、人民参審員はあまり発言しなくなるのだと述べた。

第四の問いについて、四人の裁判官は、実務において決議をする際、人民参審員が裁判官と異なる意見を提出したことはあるが稀であり、もし意見が割れた場合は、法に従い、単純多数決で最終的な判決を下すと答えた。なぜ人民参審員は裁判官と異なる意見を提出しないのかという問いについて、刑事法廷の周裁判官は、事件の裁判に配置された人民参審員は頻繁に人民法院に通っており、各法廷の裁判官と親しくなっているため、合議の際にも、裁判官と議論をすることを避けるようになったことを理由として挙げた。

最後の問いに対して、民事法廷の董裁判官と行政法廷の王裁判官は、現実には制度の運用によって、市民から人民参審員を選任し、市民と司法との距離を縮め、官僚主義化を防ぐことができると述べた。張裁判官と王裁判官は、問いに関してはっきりと答えることはできないと曖昧に述べた。

⑧ 裁判官へのインタビュー調査結果のまとめ

上述の裁判官による第一の問題への回答によって、実務において、殆どの事件の裁判に人民参審員制度を適用するか否かを決めるのは、当事者でなく、裁判官によることがわかった。本章第2節で明らかにした制度改革以来、全国にわたって参審率が高騰する趨勢、それに、参審率を業務法廷の仕事を評価する指標としたことを加えて考えれば、現在、裁判官は、できるかぎり多数の事件を人民参審員制度で裁判しようと故意的かつ積極的に努力していると思われる。そして、第二の問題について、わからないと答えた一部の裁判官を除き、多数の裁判官は、人民参審員が参加した裁判と参加しない裁判との間に違いがないと思っているのである。上述の裁判官にその理由を問ろうと、裁判官責任制、つまり、間違った裁判を行った裁判官の責任を追及しなければならないという公開されていない決まりがあるから、その責任を背負った裁判官は、事件の裁判を大切にしているのに対して、それを負わされていない人民参審員は、あまり裁判を気にかけないからである。

第三と第四の問題に対する裁判官の答えを踏まると、裁判官は人民参審員が合議体の構成員であるが、実はあまり事件の裁判に携わっていないと思っていると考えられる。すなわち、裁判官にとって、現在人民参審員は実質的には裁判に参加していないのである。

現実における制度の機能に関して、第3章の第2節で明らかにした改革後の制度が期待される四つの機能の内、司法権威を維持する機能、並びに司法公正を確保する機能が裁判官に言及されなかったが、多数の裁判官は、改革後の現行制度を実施することによってそれ以外の二つの機能、つまり、司法民主を発揚することおよび司法監督を強化することが実際に果たされていると語った。更に、法律知識を普及することならびに当事者に判決を納得させること、合議体を組むのに人的不足を補填することという公式の機能以外のことも言及された。

(2)人民参審員へのアンケート調査研究

人民参審員が裁判に参加する実態、および人民参審員による現実の制度機能に関する自己評価を明らかにするため、人民参審員を対象にアンケート調査を行った。人民参審員へのアンケート調査表で設けた六つの質問は表4.37で示されているとおりである。この部分では、アンケートの調査結果とそれに関する分析結果を示す。

筆者は、上述の各地域で裁判官に対するインタビュー調査と並行して、五つの基層人民法院で46人の人民参審員へのアンケート調査を行った。その内、湖北省のXJ市基層人民法院の5人、内モンゴル自治区のTZ旗基層人民法院の1人に対して行ったアンケート調査は、当人に面会し、アンケート調査表に記載された項目を聞いた上で、答えを記入してもらった。広東省のHZ区基層人民法院の9人と上海市のZB区基層人民法院の12人へのアンケート調査は、その人民法院で務めた裁判官の友人を通じて、調査表を所属する人民法院の全ての人民参審員に配布するよう頼み、12人の回答を入手したものである。重慶市のLF区基層人民法院の19人に対するアンケート調査は、当該人民法院の人民参審員の連絡先を入手した上で、一人ずつ電話による聴き取りを行ったものである。アンケート調査による46人の人民参審員の回答は、表4.38に示される通りである。

表4.37 人民参審員へのアンケート調査表

表4.38 人民参審員のアンケート調査に対する回答[65]

質問1に回答した人民参審員の内、78.26%が予め訴訟事件に関する資料を読んでいないと回答したのに対して、15.22%の者が、基本的には開廷の前に、資料を読んでいると答えた。質問2に回答した人民参審員の内、僅か13.04%の者が審理の際に、積極的な発言を行ったとあるのに対して、69.57%の者は、基本的には発言をしていないとある。この回答結果より、少数の人民参審員だけが、事前に資料を読み、裁判に参加するための準備を行っており、審理中に裁判官と同様に事件の事実認定をする為の質疑を提出し、積極的に裁判に参加しようとしているという実体が見えてくる。

質問3に対する回答より、全体の内19.57%を占める9人が合議の際に、裁判官と異なる意見を提出した経験があると語った。その内、6人は、意見を提出したにもかかわらず、最終的な結論は議論によらず、裁判官の意見に従うような形となった、と答えたのに対して、3人は、議論をした上で、法による単純多数決で決議を取ったとある。この結果より、合議の段階においては、裁判官の意見に容易に追従する確たる意見のない者が多数派であるのに対して、自らの考えを有し、充分な議論を重ねた上で、議決権を行使した者は少数派であることがわかる。

質問5に回答した46人の人民参審員の内、自分の意見が裁判官に無視されていると感じた、と答えた者が過半数の25人であるのに対して、4人が裁判官は意見を重用してくれていると答え、17人は、ある程度重視されていると回答した。

以上をまとめれば、人民参審員を対象として行ったアンケート調査による人民参審員の裁判への参加実態は、裁判官へのインタビュー調査で得られた、「合議体の構成員ではあるが、人民参審員は実質的に裁判に参加していない」という調査結果と正反対の結論が出た。つまり、人民参審員は、自らが形式的に裁判官と同様に事件の裁判に参加していると自己評価を行っているのである。

② 現実における制度機能についての人民参審員の評価

本稿の第3章第2節では制度機能に関する公式見解を、司法民主の発揚および司法監督の強化、司法権威の維持、司法公正の確保、という四つの機能にまとめた。だが、現実において、この四つの機能がそれぞれ実現されているのか、またその機能の内、どれが第一義的な機能であるかについては、全人大常務委員会も最高人民法院を含む権力機関も明確な答えを提示していない。調査表の質問6は、以上の問題への関心より、実際に制度の実施に携わった人民参審員からその答えを得ようとする為に設けたものである。

質問6に回答した46人の人民参審員の内、50.00%の23人は、現実において制度が果たした最も重要な機能は司法民主を発揚することにあたると答え、15.22%の7人は、何よりも制度の実施により裁判官の腐敗と不正への監督を一層強化させることができるようになったと回答した。これに対して、34.78%の16人は、現実における制度機能は四つの公式見解に止まらず、法律知識を普及すること(12人)、ならびに当事者に対する判決の説得(4人)という機能が最も重要な役割として果たされていると答えた。またここでは、司法権威を維持する機能および司法公正を確保する機能を選んだ者は誰もいなかった。この結果から見て、人民参審員にとって、現実における制度の第一義的な機能は司法民主を発揚することにあり、司法監督を強化すること、あるいは、法律知識を普及すること、当事者に判決を説得することが他の機能として想定されていると考えられる。